アメリカを訪れるたび、公共空間や地下鉄における多彩なタイルの表現に毎回驚かされます。街中で目にしたタイルは、日常の風景に自然と溶け込みながらも、強い存在感を放っていました。

オーランドで開催された展示会「Coverings2025」では、大判タイルの進化や機能性を備えた「有孔ブロック」、伝統技術を受け継ぐ「ゼリージュ」の可能性など、タイルの新たな役割を改めて実感しました。展示会で見た、最新のタイルトレンドと、再発見したタイルの魅力をご紹介します。

街中に息づくアートと文化

日本では近年、住宅や街なかでタイルの存在感が薄れつつありますが、アメリカでは今なお、公共空間や都市の中にタイルが生きています。地下鉄の駅を歩いていると、壁一面にタイルで描かれた駅名やアートがさりげなく施されていて、都市の一部として馴染んでいるのが印象的でした。

とくに心に残ったのは、コートランド・ストリート駅の壁面にある、静かに刻まれた駅名のモザイクです。この駅は、9.11の被害を受けて一時は姿を消しましたが、再建後もタイルという素材が選ばれ、モニュメントのように語るのではなく、日常にそっと寄り添うタイルの在り方に、深い美意識を感じました。

タイムズスクエア駅では、ジャック・ビールによるアート作品が構内に設置されており、忙しなく人々が行き交うなかでも、その繊細な色彩と表情はふと立ち止まりたくなる魅力にあふれていました。

  • コートランド・ストリート駅 モザイクタイルアート
  • タイムズスクエア駅 ジャック・ビール「春の訪れ/冬の始まり」

ブルックリンの「Japan Village」という商業施設では、日本の食べ物や特産品が並び、どこかホッとするような空気が流れていました。たこ焼きやうどんといった親しみのある味はもちろん、日本各地の工芸や雑貨なども販売されていて、ローカルな文化が海外でどう受け入れられているかを垣間見ることができました。

  • ブルックリン 「Japan Village」
  • 敷地内では鯉のぼりが泳いでいました

その一角に、弊社製品「ももやま」が施工されているのを発見しました。国産タイル――とりわけ多治見市で製造されたタイルが、海を越え、異国の地で多くの人々の目に触れ、空間に彩りを添えている姿に、感動を覚えました。

商社という立場でタイルに関わるなかで、地域に根ざしたものづくりの背景をもつ素材が、国境を越えて確かな存在感を放っている。そのことを自分の目で確かめられるのは、何よりの喜びです。

  • Japan Villageの一角に施工された「ももやま
  • ざっくりとした素朴なテクスチャが日本らしい空間を演出

アメリカの街を歩くなかで感じたのは、「記憶を残すこと」「日常のなかで文化を育てること」への静かな意志です。タイルという素材もまた、その一端を担っているのではないかと感じました。

取扱製品:ももやま

Coveringsで見た「世界のタイルトレンド」

フロリダ州オーランドで開催された「Coverings2025」。今年も、世界中から最新のタイルトレンドが集まり、活気にあふれた展示会となりました。

展示会を通して改めて感じたのは、大判タイルが一過性のトレンドではなく、いまや「ニュースタンダード」として定着しているということです。これまでの無地でシンプルなものに加えて、近年では柄やテクスチャーが印刷されたバリエーションも多く見られ、より意匠性の高い展開が広がってきました。

床や壁といった定番の用途だけでなく、什器の表面などにも活用される例が増えており、建築やインテリアにおける使い方の幅が着実に広がっている印象です。

取扱製品:大判タイル

その一方で、「デコラティブなタイル」に注目が集まっていました。なかでも印象的だったのが、「有孔ブロック」の存在感です。通気や採光のための機能性を備えながら、装飾性にも優れたこの素材は、空間に独特の抜け感や陰影をもたらし、単なる仕切りや壁の一部にとどまらず、デザインの主役として扱われている場面が数多く見られました。こうした陰の主役のような建材が、デザインの可能性を広げる表現素材として新たな注目を集めています。

弊社取扱「有孔ブロック」:ブリーズブロックII

展示会場では「ゼリージュ」やマジョリカを思わせるアートピースのようなタイルも多く見られました。手仕事の風合いや釉薬の濃淡が特徴のそれらは、空間に温かみを与えていました。

今回の展示会では、「素材そのものの魅力をどう活かすか」「空間にどう調和させるか」という問いに対して、多様なアプローチが提示されていました。タイルという存在が、仕上げのためだけでなく、空間そのものをかたちづくるための主役になりつつある――そんな確かな手応えを感じた視察でした。

まとめ

今回のアメリカ出張では、展示会場やメーカーの視察を通じて、タイルをめぐる世界の潮流とその変化を、肌で感じることができました。素材のあり方、空間との関係性、そして美意識の向かう先——タイルは今、単なる仕上げ材ではなく、空間づくりの核としてますます多様な役割を担いはじめています。

一方で、展示会には、トランプ関税の影響により、出展を取りやめた企業ブースも見受けられました。政治的要因が海外のタイル市場に与える影響は小さくありません。だからこそ私たちは、そうした制約や変化を前向きに受け止め、時代の流れに合った市場の広げ方や、新たな販売の在り方を模索していく必要があると強く感じました。

エクシィズは、無償でサンプルをお送りしております。ぜひ一度お手に取って、質感や釉薬による繊細な色合いをお確かめください。サンプルをご希望の方は、コンタクトフォームよりお問い合わせください。
※一部の製品については、色見本のみ無償とさせていただいております。あらかじめご了承ください。